日本講演新聞特派員である山本孝弘さんが書籍を出版されました。
「明日を笑顔に」~晴れた日に木陰で読むエッセイ集~です。
その中から印象深い話を紹介します。
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「お弁当の日」というのがある。

生徒に食の大切さを気づかせる食育活動の一環で、献立、買い出し、
調理、弁当箱詰め、そのすべてを子どもだけでやらせる日である。

実践校は全国に数千校もあるそうだ。
確かに食育にお弁当はとてもいいと思う。

お弁当には愛がある。

(お弁当の想い出 その1)
高校時代、同じ部活動をしているWという友人がいた。
彼は昼食に菓子パンを食べていることが多かった。
昼に姿が見えなくなることもあった。

ある日の昼休み、僕が何かの用事で部室に行くと鍵が開いており、
中に行くとWがひざを折り曲げてぼおっと座っていた。
Wは家が貧しく母親もいなかった。

僕は毎日お弁当を食べられることが当たり前だと思っていた自分の傲慢さに気づいた。

(お弁当の想い出 その2)
僕が以前働いていた会社で、当時五十代後半のMさんが建設現場でお弁当を取られた。
現場では車に鍵を掛けないことが多かったので部外者が侵入してお弁当を盗むことが時々起こった。
Mさんには悪いが、財布を盗まれるのと違いお弁当を盗まれるというのはちょっと滑稽な感がある。

Mさんもみんなと一緒に笑っていた。
でも少し落ち込んでいるようにも見えた。
その日の晩。みんな帰った静かな事務所でMさんが言った。

「弁当箱だけでも返って来ないかな。実はね、
この会社に再就職が決まった時に娘が買ってくれた弁当箱だったんですよ」。
そう言って悲しそうに微笑んだ。

(お弁当の想い出 その3)
これは妹の結婚式で読み上げられた両親への感謝の手紙の一部だ。
「恥ずかしい話ですが、私は会社に持っていくお弁当をお母さんに作ってもらっていました。
『マンネリでごめんね』といつもお母さんは言ったけど、お母さんのお弁当の味は一生忘れません」
妹の涙声に僕も思わず涙が出そうだった。
母を見ると、意外にも母は毅然と立ち、じっと妹を見つめていた。
その姿がなんだかかっこよく見えた。
ちなみに母の隣にいた父は大泣きしていてとても恥ずかしかった。