致知出版社のブログから紹介します。
生涯に500以上もの会社に関わり、資本主義の父といわれる渋沢栄一氏。
その渋沢による不朽の名著『論語と算盤』は原文に忠実ながらも、高校生でも
読めるように分かりやすく現代語訳したものです。
——————————————
「優しい先輩」ではダメな理由

後輩を育てたり、助けながら正しい道に導いてくれる先輩にも、
だいたい2つの種類があるような気がします。

一つ目のタイプは、後輩に対して何でも優しく親切にしてくれる人です。
決して、責めたり苛めたりといったことをせず、
あくまで心を込めて丁寧に、親切な気持ちで後輩に目をかけてやる。
絶対に後輩の敵になるようなことはせず、
後輩に欠点があったり、失敗をしでかしても、味方になってやる。
「ずっとずっと後輩を守ってあげよう」
というのがこの先輩のポリシーになっている。

こういう先輩は後輩から信頼されるでしょうし、
優しいお母さんのように懐かれて慕われるでしょう。

ただ、こういう人が果たして後輩のプラスになっているかというと、
少々疑問です。

もうひとつのタイプは、ちょうどこれの正反対です。
いつでも後輩に敵のように接し、
わざと後輩の揚げ足を取るようなことをして喜ぶ。
後輩が何か行き届かないことがあれば、
すぐガミガミと怒鳴りつけ、
叱り飛ばし、完膚無きまでに罵り責める。
もし後輩がミスでもしたら
「もう一切コイツの相手はできない」と
いうふうな辛辣な態度で後輩に接する。

このように一見すると「残酷な先輩」は、
おうおうにして後輩から恨まれ、
後輩のなかでもぜんぜん人望がなかったりするものです。
しかし、この先輩は果たして
後輩の利益になっていないのでしょうか?

こういった点は、若い人たちに
しっかり考えてもらいたい問題だと思います。
どんなに欠点があっても失敗しても守ってくれる先輩。
このまごころのこもった親切心は
ものすごくありがたいものであることは間違いありません。

けれども、こんな先輩しかいないということであれば、
後輩の「やってやろう!」という気持ちも出てこなくなってしまうものです。

「もしミスをしても先輩が許してくれる」
もっとひどくなってくると、どんなに失敗しても、
「ミスをしたらミスをしたで先輩が助けてくれるから、心配しなくていいや」
などとノンキに構えて、仕事をするときも注意不足になったり、
軽はずみなことをするような後輩を生み出してしたりしてしまって、
どうしても後輩の「頑張ろう」という気持ちを鈍らせる結果になるのです。

これに対して、いつもガミガミ言って、後輩の揚げ足を取ってやろうと
ばかりしている先輩が上にいたらどうでしょうか?
その下にいる後輩は、一瞬も油断できず、
一挙一動にもスキを作らないように気をつけ、

「あの人に揚げ足を取られるような
ことがあってはいけないから」と考えるでしょう。

その結果、自然と言動に気をつけ、素行もよくなり、怠けることもなくなり、
全体的に後輩がキリッと引き締まるようになるものです。
とくに、後輩の揚げ足を取るのが得意な先輩というのは、
その人の欠点やミスを責め上げて、罵ってバカにするだけでは満足せず、
その人の親のことまで言い出して、悪口を言い出したりして、

「そもそも、おまえの親からしてデキが悪い」
といったことを口にしたがるものです、

そんなわけで、こんな先輩の下についている後輩は、
「もし少しでも失敗やミスがあれば、
たんに自分の出番がなくなるだけでなく、
親の名も傷つけ、一家の恥辱になってしまう」
と思うので、どうしても「やってやるぞ」という気になるものです。